活動レポート
- 法人税
改正賃上げ促進税制 繰越控除措置が特に重要
法人、個人事業の人件費を前期より増加することで法人税・所得税の控除を受けられる「賃上げ促進税制」が今年も改正されます。毎年名前が同じですが、ほぼ毎年何らかの改正が入っており、適用をする場合毎年確認が必要になりますのでご注意ください。
区分として、大企業も含めた「全企業向け」、中小企業と従業員1,000人以下の個人事業が対象の「中小企業向け」があり、今回の改正で2つの間の従業員2,000人以下の法人・個人の「中堅企業向け」が新設され、全部で3パターンとなっています。
今年の改正は令和6年4月1日~令和9年3月31日開始年度から順次適用されます(事業年度が1年の法人の場合、令和7年3月31日決算分より改正版となります)。
この制度は、給与、賞与といった役員を除いた人件費が昨年度に比べ〇%増加したことを要件に△%の税額控除を受けられるというものです。この%の数字の〇は1.5~7.0、△は10~30の幅になっています。詳細は以下URLをご確認ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html
また、上乗せ要件というものがあり、教育研究費の支出も前年比5% or 10%の増加で税額控除率5% or 10%が人件費の増加率に上乗せされ、最大40%となることが可能です。さらに今年度の改正はもう一段階の上乗せが増えました。子育て両立・女性支援といった目的で「くるみん」「えるぼし」といった厚生労働省の認可を取ることでさらに5%の上乗せが発生し、最大45%控除となります。
認定となると難しく感じますが、良好な労働環境によっては現状のまま届出をもって認定されることも可能です。気になる方はお調べください。
人件費について役員の親族は除くといった様々な条件があり、誰が対象なのか確認したうえでの比較をしないと最終的に適用できなくなる可能性があります。
教育訓練費もどういったものが対象か確認のうえ実施を検討されるといいのですが、こちらの対象期間は実施日ではなく、損金算入日ベースとなります。決算日以降の支払いで大丈夫ですが損金算入要件ですので、決算月の実施分は未払計上を漏らさないようお気を付けください。
そして中小企業向けで一番大きな改正は賃上げ実施年度の控除しきれなかった金額は5年間繰越が可能となったことです。どういうことかというと、当期に人件費を前期比で基準以上増加できたので税額控除額ができたのですが、赤字となり法人税が発生しておりません。この場合、これまでは何も起きず切り捨てになっていましたが、今回の改正年度以降は申告をすることで、翌期以降5期にわたり、繰越が可能です。人件費の増加は要件になりますが、法人税が発生した年度に過年度の繰越控除額が残っていた場合、充当し、税額控除を受けることが可能です。今までは法人税がない場合、計算しても意味もないので何もしていなかったと思います。今後は計算していなかった年度でも未来に向けて計算し、申告しておいた方がよいかもしれません。
この制度の1番の問題は繰越の申告をしておかなければ繰越分充当が不可な点です。前期は法人税がなかったので申告してなかったけれど、今期法人税が発生するので前期の繰越額を計算し、後出しで充当することはできません。
比較する数字も対象者の人件費を足すだけで難しくありませんので、人件費増加が計算できた場合、どんな企業でも提出することだけはした方が良いかもしれません。
そしてこの制度の勘違いしやすい点は、人件費増加をすればするほど税金が下がるというわけではないことです。
例として、中小企業向けは前年度比2.5%以上の増加があった場合、30%の控除率となります。これは前期人件費1,000万円、当期1,050万円の場合、5%増となり2.5%以上の要件を満たします。この時増加額50万円の30%、つまり15万円が法人税控除額となります。これが45%控除となると、22万5千円の控除となります。ただし、この制度の控除はどの区分の控除だとしても法人税の20%を限度にと決められています。つまり、先述の法人が法人税100万円だった場合、この20%の20万円と上記の15万円(22万5千円)の低い方を適用するようになります。15万円の場合、15万円の控除になりますが、22万5千円だとしても20万円の控除が適用されます。ただ、ここではみ出た2万5千円は改正により繰越対象となります。これは申告をしているので自動的に繰り越されますが、繰り越されていることの認識は必要です。
昨今、最低賃金の上昇、人手不足といったことで人件費の増加は充分考えられます。また、計算過程上、新たに雇用をするとその人件費が丸ごと増加となり、要件のクリアも容易になります。逆に退職されて次の方を雇わないと人件費増加はかなり難しくなります。
前期申告しておけばよかった…とならないように充分ご検討ください。
お問い合わせ
税理士法人広島パートナーズ
Mail:partners@hp-tax.com